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移動貧困社会とは何か?モビリティ革命とリアルの狭間に

自動車整備業界とこれからの役割に向き合う経営者

「今日も免許返納をする高齢のお客様の対応をしていました。クルマがないと困る地域では、少しでも安全に長く乗り続けていただきたい」
「本当に移動に困っている世代は、クルマの運転ができない子どもや子育て層ではないでしょうか」
「クルマの高度化やそれを整備する人材の採用に四苦八苦しています」

国内全メーカーの販売・修理・車検・保険などを手掛け、地域に愛される店づくりを心がけている会社は、顧客のクルマ移動に関わる問題や自動車整備の人手不足、高度化への対応の遅れなどを危惧し、何とかできないかと悩みを漏らす。
顧客のクルマ移動に関わる問題や自動車整備の人手不足、高度化への対応の遅れなどを危惧する経営者は多い。特に国内全メーカーの販売・修理・車検・保険などを手掛け、地域に愛される店づくりをめざす会社ほど、この課題を何とかできないかと頭を悩ませる。

2027年に年間100万人 免許返納者数の将来予測

警察庁の「運転免許統計(2018年版)」によると、運転免許保有者数は2018年までに一貫して増加している。しかも75歳以上の保有者数は全体の成長率を上回る水準で推移しており、2018年は2008年比で約260万人増加。全体に占める構成比は6.8%にまで上昇している。

出典:警察庁交通局運転免許課 運転免許統計 平成30年版
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/menkyo/h30/h30_main.pdf

はたして、運転免許返納者数は今後どのように推移するのか?国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口」および警察庁「運転免許統計」などのデータを用いて矢野経済研究所が推計を行った。この予測には自動車運転などのクルマの技術の進展の要素は入っていない。つまり現在の環境の変化が引き続くと仮定した場合の人口動態などをベースとした予測値であるが、なんと2027年には”年間で100万人”を超える返納者数になるという。すなわち、日本国内で年間100万人レベルの「交通弱者」が生まれる可能性がある。

昨今、高齢者による自動車事故のニュースが後を絶たず、「高齢者は免許証を返納すべきだ」という社会環境の変化もあって、75歳以上の運転免許証の返納者数は増加している。2018年は約30万人が自主返納に応じている。

運転免許証の自主返納が進み、さらに生産年齢人口が減る中で、高齢者の移動を確保する仕組みの構築が求められる。公共交通で移動がまかなえない地域では、クルマに安全に長く乗り続ける対策を考えたり、自由に移動できるクルマ以外の移動手段を早急に増やしたりする取組みが必要だ。

キャプション 出典:内閣府のホームページ「平成30年度(2018年度) 交通事故の状況及び交通安全施策の現況」

自動運転は万能薬か?

鉄道、バス、タクシーなどに頼れる地域ですら、ドライバーの担い手不足や利用者の減少で公共交通網が脆弱になってきているところも多い。

移動の自由から、移動時間の自由へ。そして交通事故の削減、渋滞による不満とストレスからの解放。さらには高齢者の移動困難や物流クライシスの問題の解決など、自動運転レベル4や5につながる実証実験が国内外で始まってから、自動運転がすべての移動にまつわる社会課題を解決してくれる”万能薬”として期待されている。

しかし、その頼みの綱も雲行きが怪しい。

自動運転の実証実験は、これまでさまざまな形態で行われてきた。内閣府が主導する戦略的イノベーションプログラム(SIP)、経済産業省、道の駅を拠点とした国土交通省の実証実験などだ。

2023年6月時点で、日本国内ではゴルフ場で使用されている電磁誘導線とランドカーを用いた事例や、自動運転車両を用いて住民が乗り合わせるバスやデマンド交通を運行するサービス形態で実運行が始まっている。

現段階では、自動運転車両は「自分が所有するクルマが自分の代わりに運転してくれる」のではなく、公共交通の政策として走らせることが検討されている。ただし、運賃だけでは費用が足りないため、自治体や国の予算を用いながら車両の調達、地図作成、道路環境の整備などをまかなう必要がある。自動運転サービスを導入しようと奮闘する自治体には徐々にサービスが導入される一方で、検討が進まない自治体も多い。公共交通のすべてが自動運転車になる社会は数十年先になりそうだ。

したがって、”免許返納後は自動運転が送迎してくれます”というライフスタイルが構築されるにはまだまだ時間を要すると考えられ、運転免許証返納後の高齢者は、自分で運転し続けるか、違う手段を検討する必要があるのだ。

キャプション 出典:内閣府 SIP https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/keikaku2/4_jidosoko.pdf

クルマを点検整備してもらえない・買えない

安全運転を支援するASV(Advanced Safety Vehicle:先進安全自動車)や電動車の普及は、専用ツール・作業場・専門知識を持つ整備士の育成・採用など自動車整備事業者の経営にも大きな影響を与えている。狭い整備工場では、そもそも作業場の大きさが足りず対応できないところも出てきている。さらにメーカーの看板を掲げるディーラーも店舗の統廃合や整備士の不足によって、十分なサービスの提供が難しくなっている地域もあるようだ。生活にクルマが欠かせない地域ですら、地域の移動を支えてきた整備工場の経営の悪化などにより、危うい状況にある。

また、車両価格も年々上がっている。総務省の小物物価統計調査によると、軽自動車の価格は2000年の平均価格が約88万だったが、2022年には約152年と約20年で2倍近くまで上がっている。さらに軽のEVは日産サクラでメーカー希望小売価格(補助金なし)は約255万から300万になっている。今後も価格が上がり、購入すら厳しい人が増えてくるとも言われている。

出典:総務省 小物物価統計調査 2022年
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200571&tstat=000000680001&cycle=7&year=20220&month=0&result_back=1&tclass1val=0

環境にやさしい社会、交通事故のない社会は実現したい姿ではあるが、生活や地域経済、自動車産業のアフターサービスの部分が置き去りにされているのではないだろうか。

移動貧困社会とは何か

自動車産業は100年に一度のモビリティ革命に直面していると言われている。自動車やモビリティ産業の構造が変わり、仕事が奪われる危機感や新しいビジネスチャンスがあるのではないかという野心、生活者としてはデジタル活用や電動化により暮らしがより良くなるという期待がある。

しかし、暮らしと移動、その産業を取材してきた筆者がみた実情は、「移動貧困社会」ともいえる社会だった。つまり、テクノロジーで自動車もモビリティも進化しようとしているように見えるが、高齢者、子育て層、障がい者が移動に問題を抱えていて、安心して暮らせない状況になってしまっている。そして、移動に関係する産業やそこに従事している人々が疲弊してしまっているような状況なのだ。

この連載ではこのような社会の問題を考え、解決策と整備業界の今後の役割や可能性について考えていきたい。

出典 キャプション:作者作成

連載
1. 移動貧困社会とは
2. 人中心の社会は、どうあるべきか
3. 移動貧困社会の課題と3兆円の新市場
4. 愛知県春日井市高蔵寺ニュータウンに見る成果と課題
5. 自動車整備工場と移動貧困社会 課題解決に向けて(1)
6. 自動車整備工場と移動貧困社会 課題解決に向けて(2)
7. インタビューまたは対談(仮)

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